東京島嶼郷友連合会 梅田 勉
郷友連合会だより20号(2025年)より

大阪市の夢洲(ゆめしま)で開かれた大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」、一五〇に上る国と地域が参加しました。迎賓館で朝焼けの海に浮かぶ島を和紙で表現した作品が海外の賓客を出迎え評判になりました。制作した方は富山県立山町に在住の川原隆邦さん(四十三)です。
川原さんは国指定の伝統的工芸品「越中和紙」の一つで、約四百年の伝統を持つ「蛭谷(ひるだん) 和紙」唯一の継承者。万博に向け三年ほど前から牧草や花、稲穂などの素材を全国から集め、迎賓館のエントランスの壁面を飾る和紙アートの準備を進めました。
迎賓館では全国各地の名産を和紙で表現した七作品を順次衣替えしながら展示しました。
第一弾の東京をテーマにした作品は漆黒の中で朝焼けに浮かぶ伊豆諸島の利島が浮かぶ様子を和紙の原料となるコウゾと島特産の椿の花びらをすき込んだ和紙の作品で、利島に足を運んだ川原さんが見た美しい島の風景を描いたものです。川原さんは全国七つの地方の作品に統一性を持たせ、日本が一つにつながっていることを表現したかったと話しています。小さな利島が取り上げられたことに感銘を受けました。
川原さんはプロサッカー選手を目指したが、上には上がいると数年で夢に区切りをつけ、富山県に伝わる蛭谷和紙の後継者が途絶えかけていると聞き、唯一の継承者を訪ねました。透き通るような薄さなのに丈夫で、障子に張ると柔らかな明るさが出る。唯一の継承者が地道で丁寧な工法と長い歴史を一人で背負ってきたことに衝撃を受け、弟子入りを願い出て伝統の製法と紙すきの技術を教わりました。
継承者とはなりましたが、生計を立てるのは厳しく、アルバイト先の動物園で着想を得て制作の方針を転換し、伝統工芸の枠にとらわれず、お客さんに見せる作品を作ることにしました。
二〇一一年、富山市天文台で開かれた展覧会で天体をテーマにした新鮮さが話題を呼びました。その後も、柱や壁面など空間と調和した作品を生み出し、パリで開かれたジャパンエキスポなどに出展。その活躍が万博関係者の目に留まり、従来の和紙にない発想が大阪・関西万博の依頼につながりました。「伝統が生き残るために変化は必要、百年、千年と残る作品を生み出していきたい」。川原さんは独自の発想で挑み続けています。
(読売新聞四月二十七日付朝刊記事を活用した)
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